養生館 はるのひかり(箱根)

前回の温泉旅は大雪で帰途が大変なことになってしまったので、まだ2月だし、おとなしく近場で過ごそう…ということで、今回は5年ぶりの箱根へ。割と最近来たような気がしていたけれど、月日の経つのは早い。
13:30頃に箱根湯本駅に到着し、まずは駅近の鯛ラーメンのお店で軽い昼食を。5年前に発見したこのラーメンは、鯛出汁のスープ+細麺に、筍やズッキーニなどちょっと変わった具材が載っていて、あっさりした美味しさが嬉しい。お店の入口がちょっと分かりにくいせいか、あまり混んでいなくて落ち着ける。

お店を出た後、バスの時間まで少し間があったので、川の方へ降りていってみた。この日はポカポカ陽気ですっかり春の気配。川にはセキレイ3種が勢ぞろいして、ご機嫌に尻尾をパタパタさせている。コガモのつがいも発見したので、しばし楽しく観察した。
時間が来たので駅前のバス停へ向かうと、旅館組合の100円バス乗り場が意外と空いている感じだったので、それならこっちに乗ろうと並んだら、後からどんどん人が来て、結局車内はギュウギュウだった。やっぱり路線バスの方が快適かも。
バスが出発すると5分ほどで宿に到着し、スタッフさんの速やかな誘導でロビーへ通される。

今回2度目に泊まる「はるのひかり」さんは(文字数多いので以後敬称略)、養生館と銘打つだけあってコンセプトがはっきりしたお宿。静かにゆっくり心身を休めるための場なので、予約の際には公式ホームページに書かれている掟を読んで了承しなければならない。(もちろんホームページでは掟という厳しい言葉ではなく「大切なお知らせ」という表現)
「お食事中の長時間のおしゃべりは厳禁」など、なかなかすごいなと思うけれど、私の場合いつも通り普通に過ごしていれば全ての掟を軽くクリアできるので、何の苦もない。むしろ、こうした掟のお陰で静かな環境が確約されるのだから有難い以外の何物でもない。
ロビーでは生姜シロップのドリンクがふるまわれ、お風呂や食事についての説明を受けてから部屋に案内される。

館内では色々な方向に階段が延びていて、ちょっと迷路のよう。方向音痴の私はお風呂に行ったり、食事処に行ったりする度に迷っていたけれど、それも結構楽しい。
廊下には小さな赤い実をつけた木の枝が潔く一枝だけ生けられていた(南天かな?)。華美ではない侘びた風情がとてもいい。5年ぶりだから色々と忘れてしまっていて、こんな風だったっけかな…と新鮮な思いで眺めた。

案内されたのは端正な和室で、本当に綺麗に磨き上げられている印象。
素敵なロッキングチェアが置いてあったり、ミニ書斎みたいなエリアもある。照明も柔らかな光で、とても落ち着く。

広々した洗面所の奥には冷蔵庫と、ちょっと変わった椅子型の棚があって可愛い。
トイレは若干狭めの空間だけれど、言うまでもなく清潔で快適。

まずはひと風呂と思って浴場へ行ってみると、脱衣場の籠が4つ使用中だったので、微妙な人数だな…と思い、一旦部屋へ引き上げる。(お風呂は男女別の内湯が各1ヶ所のみ)
そして布団を敷いたり、先ほどロビーで渡された滞在中の案内を読み返したりしてから出直すと、今度は2名に減っていたので、お風呂に入ることにした。
部屋の金庫は旧式のものだけれど、脱衣場にダイヤル式のミニ金庫があるので安心。
浴場へのスマホやカメラの持ち込みは厳禁なので、写真は入口まで。

2階の浴場は長方形の浴槽が3つに仕切られていて、それぞれあつ湯・適温・ぬる湯と温度が異なる設定になっている。
54℃の源泉があつ湯の浴槽にかけ流され、それが適温の浴槽に流入し、さらにそこからぬる湯の浴槽に流入する仕組みで、自分好みの温度の浴槽が選べる。
洗い場はシャワーが2ヶ所しかないので、やっぱり4人くらいが限度かもしれない。(シャワーなしのカランも合わせると3ヶ所)
身体を洗い、適温の浴槽に入ってみたら、本当にちょうど良い湯加減で、何のクセもないサラサラしたお湯はいかにも養生向き。

お風呂の後は、居心地の良いお部屋でのんびり過ごす。
その都度沸かすタイプの電気ポットでお湯を沸かして、ほうじ茶を一服。急須や湯呑のデザインも宿の雰囲気とよく合っていて、ぽってりした素朴な風合いに心が和む。

ロッキングチェアに座って外を眺めると、窓ガラスが一点の曇りもなくピカピカに磨き上げられていることに気づいた。ここまで完璧にお掃除が行き届いているのは並々ならぬ美意識だなぁと感服する。お陰で外の景色がとてもクリアに見えて気持ちがいい。
ぼんやり外を眺めながら、ささくれができた指先に丁寧にバームを塗り込んだりして、日頃はゆきとどかないケアをするゆったりしたひとときを楽しむ。

そうこうしているうちに夕食の時間になったので、別棟の食事処へ。
食事処の引き戸を開けるとスタッフさんがスタンバイしていて、席に案内して下さった。1人用の席としていくつか選択肢を示されたので、2人掛けの小さいテーブルを選んで着席する。

予めセットされていたのは、自家製胡麻ドレッシングをかけて食べるサラダと、柚子味噌がかかった大根の田楽、胡麻豆腐、畑のおでん。おでんの具は、蒟蒻とちくわぶ以外は全て野菜。
続いて、お願いした飲み物と天ぷら盛り合わせがテンポ良く出てくる。

天ぷらは茎ブロッコリー・蕪・さつまいもで、ピンク色の梅塩をつけて頂く。揚げたてカリカリで美味しい!特に蕪が甘くてトロトロで絶品💛(早く食べたいものだから、写真がおざなり…)
そして、玄米ご飯と赤出汁の味噌汁が出て、これで一通り。玄米ご飯も甘みが強くモチモチして食感が良いので、これだけで美味しい。さらに、可愛い壺に入ったふりかけをかけて食べると味変が楽しめる。
温泉宿の夕食でお肉・お魚が一切出ないというのは、かなり革新的。豪勢なご馳走を楽しみに来た場合は「物足りない。」と思ってしまうかもしれないけれど、はるのひかりのコンセプトを理解して養生するつもりで来ていれば、完璧な夕食だと思う。余裕をもって食べきれる量で、全く胃に負担がかからない。使われている野菜やお米は近隣で採れた有機無農薬のもので、出所の確かな素材しか使わない拘りもすごい。
最後に出されたデザートの柚子の寒天も香り高く、大満足な締めくくりだった。

食事処は暖かな色合いの照明で緩く照らされていて、とても居心地が良い。
1人客がとても多い宿なので、1人で食べていても何の違和感もない。皆さん掟を守って静かに食事されているけれど、雰囲気のよい音楽がかかっていたり、飲み物のオーダーを伝えるスタッフさん達の声が飛び交っていたりして、変にシーンとしている訳でもない。心からリラックスできる雰囲気の中で食事を楽しめた。

部屋に戻った後は幸せな寝落ちタイム。お腹が苦しくないせいか思いきり熟睡してしまい、目覚めたら11時だった。
スッキリした気分でお風呂に行ってみたら、今度は誰もいなかった。
夜の浴場の照明はかなり控えめで、どこかつけ忘れてる?と思ったくらいだったけれど、しばらくすると目が慣れてきた。
グレーを基調としたクールな色調の浴場が月明りのような淡い光で照らされて、不思議な安らぎを感じる。
まずは適温の浴槽に浸かり、せっかくなので一番フレッシュな源泉が楽しめるあつ湯の浴槽にも入ってみた。あつ湯と言ってもそれほど熱々ではなく、ゆっくり浸かっていられる。しばらくすると肌に泡がついてきた。嬉しい。

 * * * * * * * * * * * * * * * * * 就 寝 * * * * * * * * * * * * * * * * * *

朝は8:30までしかお風呂に入れないので、朝食前に入浴へ。男女が入れ替わっていて、今度は1階の浴場。2階より小さいし、皆さん朝食前にお風呂に行くだろうし、混んでるかな…と思ったら、意外にも独泉だった。
こちらの浴槽は適温とぬる湯の2つしかないので、適温に浸かった。非日常の朝の湯浴みをゆっくり楽しみ、のぼせそうな頃に上がると、ちょうど3人の方々が入って来たので、絶妙なタイミングだった。

部屋へ戻って身繕いを済ませてから、朝食を頂きに食事処へ。席は昨日と同じ小さいテーブルだった。
食事処の柱や天井の梁が素敵なので、しみじみと眺めてしまう。
はるのひかりの建物には長い時を経てきたものにしか醸し出せない趣があり、そういう風情を壊さずリノベーションされているところが素晴らしいと思う。

朝食にはアジの開きや湯豆腐が出て、夕食と比べると普通の温泉宿っぽい。

木の箱みたいな湯豆腐セットが洒落ていて、ここから豆腐をすくって食べるのが楽しい。ご飯は雑穀ご飯で、もち麦古代米が入っている。味噌汁に入っているごぼうは、ささがきでなく、薄切りだった。全体的に野菜が柔らかすぎず適度な噛み応えがあって、「よく噛んで味わってくださいね」という意図が伝わってくる。
この他に、希望すれば自家製納豆とハーブティーが頂けるので、どちらも希望した。自家製納豆は普通の納豆のようにネバネバした感じではなく、大粒の黒い豆が6つほど小皿に載っているのを1粒ずつよく噛んで味わう。
和食の最後をフレッシュなハーブティーで締めるのも面白く、ミント入りのお茶ですっきり爽快。

朝食を終えて部屋へ戻る途中、廊下の片隅に置かれていた自家製生姜パウダーを1袋頂いた。耳かき1杯程度でポカポカ効果が得られるというので、毎朝飲むレモンティーに加えてジンジャーレモンティーにしよう♪
それにしても100円って、ずいぶん慎ましやかなお値段…

はるのひかりは本当なら連泊してこそ真価が得られる宿だと思うし、宿の方でも連泊を推奨しているのだけれど、結局今回も空室があった日に1泊だけ予約を入れる形になってしまった。
それでもかなり心身が整った気分になり、満足して宿を後にした。
この日は雨だったけれど、今まで一度も行ったことのない芦ノ湖に行ってみたくて、元箱根港行きの路線バスに乗り込んだ。
30分くらいで元箱根港に到着し、バス乗場にコインロッカーを発見したので、まずは荷物を預ける。600円か、高いな…と思いつつチャリチャリ100円玉を入れて鍵を抜き取り、さて出発と振り返ると、背後に400円のロッカーがあった💧
たかが200円の違いなのに、痛恨のミスをした気分。でも気を取り直して出発!

雨の月曜日なので、湖畔には人がまばら。それでも海賊船はちゃんと走っている。
カモが色々いるかな~と思って見渡してみたけれど、オオバンが数羽とキンクロハジロが1羽、カワウが1羽いたのみ。芦ノ湖はカモたちには不人気なのか?
でも大きな湖だから、反対側の岸辺に行くと様子が違うのかもしれない。
とりあえず元箱根港から近い恩賜箱根公園を目指すことに。
国道沿いの小道を歩いていくと、カラ類の声が聞こえてきた。傘をさしながら双眼鏡を構えるのが難儀だけれど、がんばって見ていると、シジュウカラたちに混じってグレー×茶褐色の地味な鳥の姿があった。クロジかな?と思ったけれど、ちょっと色合いが違うような。もしかするとカヤクグリという鳥かもしれない。でも、ちょこまか動くのでイマイチはっきり見えず残念。

公園に到着して中に入ってみると、思っていたより広大で階段が多く、ちょっとした運動になる。そして見事に誰もいない…。

芦ノ湖が見晴らせる展望台もあるので、天気が良ければかなり気持ちよさそうな場所。園内には色々な種類のコケが生えているらしく、木の手すりなども苔むしていい感じだった。春の芽吹きの季節など、きっと綺麗だろうな。
もしかするといつでも空いている穴場なのかもしれないので、また来てみたい。

結局ほとんど鳥に会えないまま帰りかけると、入口付近まで戻って来た時、複数の鳥がキチキチと争っているような鋭い声がした。声がする木に双眼鏡を向けると、ちょっとずんぐりしたグレーの鳥が視界に入ったものの、すぐに飛ばれてしまった。
残念…と思いつつ歩き出すと、少し離れたところから綺麗な囀りが✨
それで、今のはイカルだったのだなと分かった。あの美声を聴けただけで収穫だった。
そこそこ歩いてお腹が空いてきたので、元箱根港に戻って昼食にすることに。

一度入ってみたかったBakery & Table箱根の3Fレストランで、クロスティーニ・プレートを注文。期待通りフランスパンが美味しい💛
パンの上に載っているのは魚のフライ(アジと言ってたっけ?)、タコのアヒージョ(?)、ポテトサラダと生ハムで、どれも美味しいけど割と塩味が強めなので、後で喉が渇きそう。サラダとコーンスープ、ポテトフライ、イチゴソースがかかったヨーグルトもついて、ワンプレートで色々楽しめた。

バス停へ戻ると、いい具合に間もなく箱根湯本行きの急行バスが来るところだった。さっきは箱根旧街道を上がってくるバスだったけれど、急行バスは道幅が広い新道をほぼノンストップで駆け抜ける。
そして、運転するのは若い女性のドライバーさん!こんな大型の路線バスで女性ドライバーって珍しい(というか、初めて見たかも)。外国人のお客さんにもシンプルな英語でテキパキ対応していて、見るからに頼もしい。出発すると、大型トラックとビュンビュンすれ違いながらも安定した走りでカッコイイ!
最近はバスの運転手も人手不足で大変そうな話を聞くけれど、こんな立派な若手ドライバーさんを見ると心強い気持ちになる。
爽快なドライブを終えて箱根湯本駅に到着すると、これもいい具合に10分後のロマンスカーに乗れるタイミング♪
それなのに……切符を買ってホームへ降りた途端、人身事故発生のアナウンスが💧
ロマンスカーは当面運休となり、またもや帰宅困難な旅になってしまった。
どうもこのところ電車運が悪いなぁとトホホな気分になるけれど、こないだの5時間待ちに比べたら全然マシ。
買ったばかりの特急券を払い戻してもらい、振替輸送のJR線に乗るべく小田原行きの各停に乗り込んだ。

=Memo=
1泊2食つき 17,090 yen
朝食@食事処、夕食@食事処
Check in 15:00/out 10:30
温泉:ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉(pH8.2)